声楽についての考察(5)最終回。
~オペラ歌手・エミリアーノ・ブラーズィからのメッセージ~
基礎とレパートリーの選択
声楽を学びたいと思っている人に私ができることは、まず第一に、声楽にはしっかりとした土台が必要だということに気づいてもらうことです。この土台は、私が先に述べた3点を確固たるものにし、これなくしては改善や進歩は考えられません。ちょうど家の基礎を築くのと同じです。まだ、基礎も出来ていないのに、屋根をどうするかという話をしても無駄なのです。屋根は後から考えるもの。まずは基礎を築くのです。できるだけ良い物で、安定していなくてはなりません。土台がないのなら、窓や壁、リビングなど、それ以外について考えるのは無駄。そんな家に家具を揃えるのはまったく不要なことです。馬鹿げています。多くの歌い手の声も、同じように馬鹿げた状況に置かれています。自分の声にどんなレパートリーが合うのかわからず、どこに声を響かせれば良いのかわからず、何もわからないまま…。
実は、レパートリーはもっとも多く挙げられる問題の一つです。自分の声の特徴がわかっていないとレパートリーを選ぶことはできません。だからこそ、私は「土台」にこだわるのです。他のものは後からついてくるのです。
レパートリーとは、あなたが自分の家に選んだ色のようなもので、他の人に見せるためにあるのです。わかりますか?!では、もし家がないとしたら、どんなペンキを塗ればいいのでしょうか?!それと同じことです。あなたの喉が詰まっているとしたら、いったいどんなレパートリーが歌えるというのでしょう。間違った歌を歌っていることになりますし、さらに、そんな歌い方では喉をだめにしてしまい、ますます悪い方向にいってしまうことは明らかです。
どこの国でも見受けられる問題ではあるのですが、声域を正しく分類することが出来ない結果、生徒のレパートリーを見極められないというケースがとりわけ日本に多いように思います。このような過ちは、発声器官に取り返しのつかない傷を負わせるという悲劇を招きかねません。
日本でこういった問題が特に目立つのは、イタリア語を習熟していないからだと思います。日本人の生徒はイタリア語の発音は簡単だと思い込み、イタリア語に精通していないがゆえに、良い朗読などから聞いて学んだ発音で歌おうとします。
しかし、歌手のためのディクションはそれとは異なるのです。たとえば、歌う時の母音「ア」「エ」「イ」「オ」「ウ」は話し言葉のそれとは違います。歌う時は発声器官の使い方が違いますから、発音の仕方も違い、母音の発音はずいぶん違ったものになるのです。聞いている人にもはっきりと聞き分けられるほどです。ですから、俳優のためのディクションの講座を受講したり、美しいイタリア語の発音で話すための講座を受講したりするのは大きな間違いです。
今回は母音についてのみ触れましたが、他の音や音節の発音についても同じことが言えます。
私のレッスンにきた生徒は誰一人として、歌い手のディクションを知りませんでした。おそらく「上手に発音しなさい」と何度も繰り返し言われ、それに集中するあまり喉の開きがおろそかになってしまっているのでしょう。しかし、母音は喉が開いてこそ発音できるのです。「母音を発音するから喉が開く」のではありません。その逆で「喉を開けて母音を出す」のです。「母音で歌う」という人がいますが、それはまったく正しくありません!開いた喉で歌うのです。開いた喉で発声された母音はその十分その機能を果たすことができ、より正しい発音に改善していくことができます。しかし、まずは喉を開いて声を出すこと、ディクションはその後に学ぶべきことです。そして、喉を開けられるかどうかは、発声に関わる筋肉のことが理解できているかどうかにかかっているのです。
全てを語りつくすことはできませんが、この短い省察の中で、いくつかの基本的な問題について触れることが出来たと思います。ブログでは、実際に声を使った具体例を示すことができないのが残念ですが。最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
エミリアーノ・ブラーズィ
バックナンバー:声楽についての考察(4)声の正しい出し方
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