声楽についての考察(3)⁻声楽メソッドの向こうに⁻
~オペラ歌手・声楽講師エミリアーノ・ブラーズィからのメッセージ~
メソッドの向こうに
これはとても重要なポイントです。なぜなら、前に述べたとおり、生徒、あるいは歌の学校や先生を探している人は、様々な選択肢やメソッドを前にして悩んでいるからです。生徒がまず知りたいのは、そのメソッドの効果の有無、そしてそれがどのように効果をもたらすのかということであり、また、その先生に自分の声の形成を任せて良いのかどうかということです。先生はこういった信頼を受け止められる人でなくてはなりません。声はとても繊細であり、配慮をしながら大切に扱わなくてはならないものだからです。
これが声楽メソッドというものが、実際には存在しない理由です。医師が病人を直すのに決まった方法なんてないでしょう?医者の能力とは、病気を診断し、正しい治療を行うことです。
もちろん、「歌えない」ことは病気ではありません。これは前述の「歌手は自分の体を知らなくてはならない」ということに関係した、ただのたとえ話です。
このたとえをもう少し続けることにしましょう。たとえば、私の脚が肉離れを起こして、走りたいのに走れないという時には、リハビリ専門医のところに行って筋肉を元の状態に治してもらわなくてはなりません。そうすれば走れるようになります。私が歌うことができない時には、私の可能性を最大限に活かした歌い方が出来るよう、体の構造を整え、正しい構え方を教えてくれる人のところに行くことが必要です。声楽の先生とリハビリ専門医の仕事は基本的に一緒です。声楽の先生は、発声する時に使う筋肉や生理学的機能に照準を合わせた特殊な練習を行ってくれる専門家であり、声のメカニズムを自覚するようにさせてくれるのです。この練習は声がどうやって出るのかを私たちが理解できるよう、特定の部位に直接働きかける非常に科学的な方法であると言えます。特定の筋肉のために考案された練習なのです。何も理解しないまま声を引っ張りだし、とりあえず歌うために作られたヴォカリーズではないのです。たいていの先生はヴォカリーズを声をウォーミングアップするための準備運動のようにしか捉えていません。その証拠にある生徒は私にこういったのです。「あら、信じられない!こんな風に私が思い描いたとおりに歌えるようになるのに20年かかったんですよ!」
一人ひとりの歌い手は、それぞれ解決しなければならない問題を抱えています。でも、どうやって解決するのか誰も教えてくれません。解決策が見つかるまでに延々と時間がかかることもあるのです。そして、その解決策は決して一人で見つけられるものではありません。というのも、自分の障害になっているものが何なのかわからず、また、声がどういう状態で出るものなのかを理解していなければ、解決できるはずもないのですから。
講師: エミリアーノ・ブラーズィ
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